2022年3月17日木曜日

開発部長のお仕事



>TADAさんがゲーム制作においてどういう仕事をしていたのか、もっと具体的に知りたいです。
>プログラマー=プログラムを書く人、イラストレーター=絵を書く人、シナリオライター=シナリオを書く人、というのは分かるのですが、ディレクターって何をする人なんでしょうか…?
>素人目にはよく分からないんですよね。

└|∵|┐ ハーイ

よくぞ聞いてくれました
見えない所でこんなに頑張っていたんだよとか、ちょっと語りたかったのだ
隠居した立場だから言ってもいいよね、よくがんばった俺

まぁ、私のアリスソフト史自体も・・
酒の席で後輩に対して「俺達の若い頃は、うんたらかんたら」と語るアレだしね
同じ事ばかり語られてうざいんだよね、でも・・この歳になったから分かる、語りたいんだよ、あれって・・
まぁ、だからプログで発散するくらいが丁度良い(無理矢理聞かせるのでなく、聞きたい人にだけ聞いてもらう)

さて、開発部長のお仕事だが・・
かなり多岐に渡ります

アリスソフトの場合、社長(先代社長も現社長も)は
 経営、経理、最終的な判断をする責任者
という所に徹底しているので、現場は開発部長が仕切る形になります


1.スケジュール

開発部長の一番の仕事は、会社全体の開発計画の作成と運用
何を作ろうが、何本出そうが、どんな売り方にしようが

赤字を出さない、利益を出す

 固定費(人件費、各種事務費) < 売上げ

固定費が増えると多くの売上げが必要なのだ
1年間に1本では厳しいのだ
毎年、新作商品が出せるようにチーム編成、企画を行う
その為のスケジュール作り、これが重要な仕事になる


でもね、これが難しいのだ・・
  • 開発は予定通り進まない、遅れたり開発失敗とか・・
  • 商品は予定通りに売れない、大ヒットしたり、しなかったり・・極端
  • 売上げが足りない>スタッフを増やして開発本数を増やす>固定費が増えてもっと売上げが必要
  • 数年に1回の大ヒットとかは税金が地獄・・、なので毎年安定した売上げが必要
  • 製造する本数を決めたり、販売価格を決めたりも

それと、損切りの決断
失敗が見えた開発を覚悟を決めて中止させる
しんどいんだコレ、うまくいくかもしれないという望みもあるし、100%駄目な訳でも無いし
これまで掛けた開発費も無駄になる、担当スタッフも可哀相だしと・・
・・・これ、何度かタイミングを失敗しました


私、貧乏性なので・・お金怖いのだ
何億、何千万とか・・
私が悩み開発全体が止まると毎日、何十万と無駄にしていく・・



2.人事

大きな会社だと人事部という専門の部署があるんだけど、小さな組織では開発部長の仕事

スタッフの集め、求人
会社が絶好調の時は、数百という求人がドバッと来てました
これを見て、精査して、面接して、判断を下す

すごい時間がかかる、数日どころか数週間は開発が止まる
 
給与査定
年に1.2回、給与査定をします。
これも、むっちゃ時間がかかります
そしてしんどいです、ストレスかかります
だって、みんなの生活がかかっているしね

毎年、昇給させてあげたいし、ウハウハの給与を出してあげたいよ
成果に結びつかなかった努力や頑張りも認めてあげたい
だが、ない袖は振れない


解雇
開発部長の重要に仕事です、そして、もっとも嫌な仕事です

そう簡単に解雇はしないけど
やる気が無い、甘えている
給与分の仕事が出来ない
他のスタッフの足をひっぱる

何より、他のスタッフから
「なんであの人、クビにならないんですか、
 あれでいいんだったら自分が頑張っているのバカみたいですよね」
なんて空気になってしまい、会社が腐ってはまずい

その人の人生にかかわる事だから・・
解雇の検討を始めると、幹部スタッフと何度も相談し、何度も悩み・・むっちゃしんどい
解雇したその前後数日は、こちらも仕事にならない


自主退職
本人の都合で辞められる場合も辛い
特に重要なスタッフ、将来を期待しているスタッフだと・・なお辛い
当然、大抵は なんらかの不満を持っているから辞める訳で 辛い

かと言ってその不満を解消(本人の希望を聞き入れる)しようとすると
他のスタッフとの不公平が発生したりするし・・


社内見回り、挨拶
私は、一日に1.2回は社内をうろうろと歩いた
「どう、今はなんの作業しているの」とか話しかける

これは、給与査定をする立場として、いつも君達を見ているよ
というアピールもあったりします
・・・ま、仕事に煮詰まった時の自分の気分転換も兼ねていたが

後、コロッケとかお菓子とかの差し入れ
これも上司の仕事の一つ
スタッフへのねぎらい、ご機嫌取り?



3.広報


広報宣伝も開発部長の仕事だ

初期は、雑誌記事を作ってもらう為のお願いや
雑誌広告、ショップへの挨拶回りとか
のちにWebサイト、各種イベントなど
後、会誌とかも

ブランドイメージをどんな風にするか
どんな感じでユーザーに見てもらいたいのか
そんなのも決めていく事になる
 (いや、当時は意識はしてなかったけど・・やりたい事をしていただけ

ちょっと辛いというか難しかった事は
好みで無いゲーム、自分が駄目と思ったゲームなどの宣伝は言いにくかった
個人的に好き、気に入ったのは、いくらでも宣伝出来るのだが・・


後、発売後にユーザーから指摘のあった悪い点、そして自分もそう思った時も
「ごめん失敗した、俺も駄目だ思うよ」と素直に言いたいのだが
立場上、それも言えずに、取り繕うような事を言わざる得ない時とか・・
それを言っちゃうと、
そこを気に入ってくれた人、楽しんでくれたユーザーさんに対して失礼になってしまうし
自分だけで作った物なら言いやすいが、他のスタッフが作った部分などは言えないしね
ま、それでも・・私、けっこう言っちゃている方だったかもしれないけど

広報に関しては、専門の担当者も入社してきて
東京事務所が出来てからは、ほぼノータッチになったけど



4.開発


そう、ゲーム開発、これが本業だ
私の場合は・・

コンセプト作り
どんなゲームにするか、テーマというか、売りのイメージ?
自分で言うのもなんだが、ここは得意な所だったと思う
他社の後追いでは無く、こんなゲーム欲しいよねというイメージを固める

ゲームデザイン、設定、全体ストーリー
これも大きな仕事、ゲームの全体部分がこれで決まる
最初に全て設計してから作業に入る訳でなく、作りながら考える

シナリオテキスト、プログラム
実際の作業、物量も多いし専門の技術がいる仕事
昔は自分でしていたし、今でもやりたいのだけど技術無い(へたっぴ)なので
専門職に任せる事が多い

データ入れ、バランス取り
ゲーム部分のデータ入れ、スクリプト処理、これらは自分でやる事が多いです
楽しい作業です


後、私のディレクターとしての特長としては・・
自分には技術が無く(へたっぴ)と自覚しているので
他のスタッフに頼る事、任せる事に抵抗があまりない(嫉妬しない)
あえて企画の一部は考えずに穴を作ってみんなが参加してもらって
それらに頼って作っていました

たとえるなら・・
TADAという鍋に、具材をみんな放り込んでくれ
味付けはなんとか調製するよ、それが俺の仕事なのだと
・・あっ、ただ異物すぎるのは駄目だよ(風麟とか・・・




ゲーム作りばかりしていると思われていたかもしれないが
開発部長という役職は、実は他の雑務が多いんだよ

だいたい、年間通しての作業割合はこんな感じだろうか・・
  • スケジュール関係.10%
  • 人事関係    .20%
  • 広報関係    .10%
  • 開発関係    .60%

もちろん自分の開発がマスターアップ付近の時は、開発100%として
他の事は全て後まわしにしたりもした
広報とかは、東京事務所が出来てからは、そちらに全て任せたので最終的に1%ぐらいの負担まで減ったかな


なんにしろ、ゲーム開発だけに集中という訳にはいかなかったのだ
これは、小規模なソフトハウスに限らず中小企業の経営者はみんなそうだよね


・・・あっ、最初の質問 ディレクターって何をする人なんでしょうか…?
でしたね。
なんか、開発部長は・・てな答え方をしちゃった
ま、いいか

ディレクター
ひとつの開発の責任者、
予算内、期間内でゲームを作るというのが任務
その為に各種決定権と権限を持つが、仕事をうまく割り振れなかった部分は全て自分がやらなくてはならない
まぁ、ぶっちゃけ、全作業の尻ぬぐい、雑用係

開発部長
会社全体の開発責任者
毎年利益を出すというのが任務
その為に各種決定権と権限を持つが、仕事をうまく割り振れなかった部分は全て自分がやらなくてはならない
まぁ、ぶっちゃけ、全作業の尻ぬぐい(ディレクターがミスったらそれも)、雑用係

範囲が違うだけで一緒だね




12 件のコメント:

  1. こんにちは。例の質問を投げさせて頂いた者です。
    とても丁寧にまとめてくれてありがとうございます。
    すごく嬉しいです。

    漠然と「スケジュール管理職」みたいなイメージはあったのですが。

    何と言うか…めちゃくちゃ色々やってますね…。
    専門職以外全部?みたいな…?
    何でも屋みたいな…?

    やっぱり(少しずつでも)全体に関われる人が陣頭指揮を取るほうが、開発は上手くいくんですかね。
    勉強になります。

    かつそれに加えて、バランス調整を責任者自らやってるのが、アリスソフトさんの強みな気がします。
    本人は大変だと思いますけど…。

    あと責任の伴う判断が求められることも多いのは、ストレス大変そうな気がします。
    やっぱりゲーム作ってれば、楽しい事ばかりではないんでしょうね。
    お疲れさまでございます…。

    面白い記事をありがとうございました。

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  2. コロッケ! 天神橋商店街のあのコロッケですよね
    十年以上前、列に並んでて「あのひとTADAさんだよなあ、声かけようかなあ、恐れ多いなあ…」って思って結局声かけずじまいだったこと数回w
    大阪をはなれて随分になりますけど、あの店の愛想の悪いお姉ちゃん元気だろうかな?

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    1. たぶん、そのコロッケ屋です
      いったい通算何個買ったんだろう・・すごい数買っているなぁ、俺

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  3. ↑の方に便乗して聞きますが  LINEスタンプでコロッケ持ったハニーのモデルってTADA様なんでしょうか?

    後、面接の時にTADA様が聞くようにしていた質問はありますか?以下のエピソード以外にもあれば知りたいです。
    〉入社面接時、とりに「一番好きなゲームは何ですか」と聞かれ「トルネコの大冒険です」「どんなところが好きですか」「取り返しがつかなくなるところが」と答え、面接官だったTADAととりに大爆笑された。

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    1. あれは、ハニーだよ、ハニーもコロッケ好きなんだよ
      いや、生き物みんなコロッケ好き
      コロッケ最強だね


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    2. 面接か・・やり方下手だったなぁと思う
      当時、どんなのを質問したのかはあまり覚えていないのだ
      いっぱいいっぱいだったので・・

      後にスタッフと、もっと趣向が合う人を見つける選択にしてもよかったかも話していた事もあった
      たとえば、「ガンダムとザク、どっちが好き」とか

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  4. 文章が本当に上手いですよね
    読みやすくてさらっと読んでしまった…
    スケジュールのどの段階で今こんなゲーム作ってるよ!と発表されるんですかね?
    今アリスソフト何してるかわからないので…ソシャゲ一本でいくのは悲しいなぁ

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    1. うおお・・なんか嬉しい
      読みやすいとか言ってもらえて

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    2. 開発中のゲームをどの段階で発表するか?
      ですが

      いつも早く言いたくて言いたくてウズウズしていたよー
        が・・・
      あまり早く言っても、その後の継続した情報を出せなかったら発売日までに「なんとなく過去の物、すでに古い存在」になりそうで怖かったり
      言ったは良いが開発が頓挫したり、遅れたりがあるので

      発表するタイミングは、いつも悩んでました。

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    3. 難しいですよね…
      早く発表してくれるけどいつも発売が伸びるなんていうメーカーさんもあったし…気長に待つしかないかぁ(´・ω・`)
      ありがとうです!

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  5. 大悪司の頃の会報でTADAさんがコロッケヒーローと呼ばれていましたが、このような想いで配られていたのですね。
    天神橋に行ったら食べてみたいなぁ。

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